不妊の原因にもなる「高プロラクチン血症」って?
「高プロラクチン血症」という病気を聞いたことがあるでしょうか。この病気にかかると月経がなくなったり、月経はあっても排卵されなかったりするなどの症状がみられ、妊娠しにくい状態になってしまいます。さらにこの病気は女性だけでなく男性もかかることがあり、男性不妊の原因となる可能性があります。ここでは、高プロラクチン血症の症状や検査、治療法について説明します。
プロラクチンとはどんな症状?なぜ不妊の原因に
プロラクチンは脳の下垂体から分泌されるホルモンで、乳腺を刺激し母乳の分泌を促す役割を担っています。妊娠中や出産後にはプロラクチンがたくさん分泌されますが、そうではない場合に分泌が過剰になることがあります。これが高プロラクチン血症です。一般女性では0.4%、卵巣機能異常がある女性では9~17%で発症すると報告されています。
高プロラクチン血症は、主に以下の症状が現れます。
- 乳汁が分泌される
- 胸が張る
- 月経がなくなったり(無月経)、月経はあっても排卵がなくなったり(無排卵月経)する
通常、出産後に母乳が多く出ている間は月経がこなくなりますが、これはプロラクチンに月経や排卵を抑える働きがあるためです。一方、出産後ではないのにプロラクチンがたくさん分泌されると、無月経や無排卵月経になる可能性があるほか、受精卵の着床にも影響すると考えられています。そのため、高プロラクチン血症は不妊の原因の一つになりうるのです。
また、男性が高プロラクチン血症になると、性欲減退や勃起不全、乳房が女性のように膨らむ「女性化乳房」といった症状がみられ、男性不妊の原因となることもあります。
高プロラクチン血症の検査方法と原因
高プロラクチン血症は、血液検査で血中のプロラクチン値を調べることでわかります。ただ、プロラクチン値は変動しやすいため、複数回の検査に基づき診断されることが多いようです。
また、普段のプロラクチン値は正常なのに夜間や大きなストレスを抱えている時、黄体期などにプロラクチン値が高くなる「潜在性高プロラクチン血症」の人を見つけるため、甲状腺刺激ホルモン放出因子(TRH)を注射して注射前後の血中プロラクチン値を調べる検査が行われることもあります。
他にも、高プロラクチン血症の原因として下垂体の腫瘍が疑われる場合には、頭部MRI検査が行われます。
脳の下垂体にできた良性の腫瘍(下垂体腺腫)や下垂体の近くにできた腫瘍(ラトケ嚢胞、頭蓋咽頭腫)などが原因でプロラクチン値が高くなることがあり、これらは「腫瘍性高プロラクチン血症」と呼ばれています。このうち、高プロラクチン血症の原因として最も多いのがプロラクチンを産生する下垂体腺腫(プロラクチノーマ)で、全体の3割超を占めると報告されています。
また、一部の抗精神病薬や抗うつ薬、胃薬や降圧薬などにはドパミンというホルモンの働きを抑える作用があるため、一時的にプロラクチンの分泌量が増えることがあります。さらに、下垂体に直接作用するピルなどのホルモン剤がプロラクチン値上昇の原因となる場合もあります。こうした薬が原因の高プロラクチン血症は、「薬剤性高プロラクチン血症」と呼ばれています。
一方、腫瘍などの明らかな器質的異常がない「機能性高プロラクチン血症」の割合も17%を占めているとの報告があります。
高プロラクチン血症の治療法
治療法は、プロラクチン値を上昇させている原因によって異なります。
まず、薬の副作用が原因の場合(薬剤性高プロラクチン血症)は、その薬を中止したり他の薬に変更することで症状が改善します。もし病気の治療で薬の使用を中止できない場合はドパミン作動薬を併用します。
腫瘍性や機能性の高プロラクチン血症に対しては、基本的にカベルゴリン(商品名カバサール)やテルグリド(同テルロン)、ブロモクリプチン(同パーロデル)などの薬を使ってプロラクチン値を下げる治療が行われます。このうちカベルゴリンにはプロラクチン値を低下させるだけでなく腫瘍を小さくする作用もあるとされています。
ただし腫瘍性の場合、腫瘍が大きい患者や薬物治療による効果が得られない患者には、腫瘍を取り除く手術が選択されることもあります。手術は開頭法または経鼻的手術のいずれかで行われますが、最近は「ガンマナイフ」と呼ばれる放射線を1カ所に集中して照射する治療で腫瘍を縮小させる方法もとられています。
適切な治療で妊娠可能な状態に
不妊の原因として決して珍しくない高プロラクチン血症ですが、原因を調べて適切な治療を受ければ多くの場合は改善します。月経異常など気になる症状があれば、まずは婦人科や内分泌科を受診して医師に相談しましょう。