過去の中絶経験は不妊に影響するの?

2019.12.12

はてな

日本で人工妊娠中絶(以下、中絶)経験がある女性は約13%に上るとの報告もあるなど、持病や経済的な事情などからやむを得ず中絶手術を受けた経験のある女性は決して少なくありません。過去に中絶経験のある女性の中には、そのことで妊娠しにくい体になってしまったのではないかと不安を抱えている方もいるかもしれません。では、本当に中絶手術は不妊リスクを高めるのでしょうか?

中絶手術の具体的な方法とは

不妊に与える影響の有無の前に、まずは中絶手術が具体的にどのような方法で行われているかについてあらためて説明します。

中絶手術は受けられる期間が妊娠22週未満までと決められていますが、妊娠初期(妊娠12週未満)と妊娠中期(妊娠12〜22週未満)で手術方法が異なります。妊娠初期の手術では、子宮口を広げた上で器具を使い子宮の内容物をかきだす「掻爬法(そうはほう)」と、器械で吸い出す「吸引法」のいずれかの方法による子宮内容除去術が行われています。

一方、より胎児や子宮のサイズが大きくなった妊娠中期の手術では、子宮口を開く処置を行った後に子宮収縮剤を使用して人工的に陣痛を起こし、流産させる方法がとられています。

中絶手術のリスク

中絶手術には全くリスクがないわけではありません。例えば妊娠初期の場合、子宮の中から内容物をかきだしたり、吸引したりする際に子宮に穴があいてしまう「子宮穿孔(しきゅうせんこう)」のリスクや胎盤の一部が子宮に残ってしまうリスク、感染症や腹膜炎などを起こすリスクもあります。また、妊娠中期の中絶手術では、子宮収縮剤の影響で子宮破裂を起こすこともあります。

不妊への影響はまれ

では、不妊への影響についてはどうでしょうか。不妊に関しても中絶手術による影響は全くないとは言い切れません。

例えば、中絶手術の経験がある女性では、まれに掻爬法により子宮に癒着が残ってしまう「子宮内腔癒着症(アッシャーマン症候群)」などの後遺症がみられ、それが不妊の原因となりうることが分かっています。アッシャーマン症候群は一般的な検査で見つけることが難しく、子宮鏡を使った検査で調べる必要があります。癒着の程度は人によって異なり、簡単にはがれてしまうものから手術が必要な場合までさまざまなケースがあります。

また、繰り返し子宮内容除去術を受けた女性では子宮内膜が薄くなる「子宮内膜菲薄化」の危険性が高く、このことも不妊の原因になると考えられています。ただし、中絶手術について定めた母体保護法で指定された医師の手術を受けた場合であればこれらが起こる頻度は極めてまれです。

しかしながら、中絶したことに対する後悔の念や罪悪感、また中絶が原因で不妊になるのではないかという不安感がストレスになり、ホルモンバランスが崩れて月経不順や排卵障害になる可能性は考えられます。これらは、いずれも不妊リスクを高めることが分かっています。

もし中絶手術が不妊の原因ではないかと不安に感じているのであれば、まずは医師に相談してみましょう。

妊娠したら中絶の経験があることを医師に伝えて

もし妊娠したら、妊婦健診などで必ず過去の妊娠や出産の回数を尋ねられ母子手帳にも記入が求められます。その際、必ず過去に中絶の経験があることを産婦人科の担当医に伝えましょう。それは、医学的に必要な情報だからです。医師に伝えた情報はパートナーを含めて口外されることはないため、自分の体とお腹の赤ちゃんの健康を守るためにも話しておくことが重要です。

(文/メディカルトリビューン編集部)