妊娠を考えている人は風疹の抗体検査を
不妊治療を考えている全ての女性に、今のうちに確かめておいてほしいことがあります。それは「自分の身体に風疹の抗体があるかどうか」です。というのも、妊娠中に風疹ウイルスに感染すると目や耳、心臓などに障害を持った赤ちゃんが生まれる可能性があるからです。ここでは、妊娠中に風疹に感染した場合の危険性と抗体検査の重要性について説明します。
風疹ってどんな病気?
風疹は風疹ウイルスに感染することで発症する病気です。発熱や発疹、耳の後ろや首のリンパ節の腫れ、関節の痛みといった症状が現れます。一般的には軽症で済み数日で回復するのですが、まれに高熱が続いたり急性脳炎といった重い合併症がみられる患者さんもいます。一方で、感染しても症状が出ない「不顕性感染」の人も15~30%ほどいると考えられています。
風疹の感染力は強く、くしゃみや咳、会話で飛び散った飛沫を通して感染(飛沫感染)します。風疹の抗体がない人たちの集団に感染者がいると、その人から5~7人にうつるといわれています。また、不顕性感染の人からもうつるため、知らない間に感染が広がる危険性があります。
大人の風疹患者が増えている
風疹は子どもの病気というイメージがあるかもしれませんが、近年は発症者数の大半を成人男性が占めていることが分かっています。これは、風疹の予防接種を受ける機会がなかったり、1回しか受けていないために十分な抗体を持たない人が多く存在するからです。
風疹ウイルスへの免疫を獲得するには2回の予防接種が望ましいのですが、公費で2回の予防接種を受けられるようになったのは1990年4月2日以降に生まれた人だけ。それ以前に生まれた人は男女ともに要注意です。
ちなみに、風疹の大きな流行がみられた2013年には累計で1万4,344人もの患者数が報告されていますが、その後も収束の兆しは見えておらず、今年(2019年)も30~40代の男性を中心に感染の報告が相次いでいます。
妊娠中に感染すると赤ちゃんに障害が出る可能性も
風疹に対する抗体が不十分な女性が妊娠中に風疹ウイルスに感染すると、お腹の中の赤ちゃんにも感染してしまい「先天性風疹症候群」の子どもが生まれる危険性があります。特に妊娠初期に感染すると危険性が高く、妊娠1カ月で50%、2カ月で35%、3カ月で18%、4カ月で8%の確率で発症するというデータもあります。
先天性風疹症候群の主な症状としては難聴や先天性心疾患、白内障が挙げられます。その他の症状には網膜症や肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球などがあります。
「確実に2回予防接種した人」以外は抗体検査を
風疹ウイルスの感染から身を守るためには体内に「抗体」が必要です。十分な抗体を得るには2回の予防接種が必要ですが、生まれた年によっては1回しか受けていない女性も多いため、まずは母子健康手帳で確認してみましょう。もし1回しか受けていない、あるいは全く受けていないことが分かった場合は抗体検査を受けることをお勧めします。
抗体検査は少量の血液を採取して抗体の量を調べる検査です。現在、妊娠を希望している女性や妊婦の家族を対象に抗体検査を無料で受けられる自治体が多いようです。まずはお住まいの自治体の保健所などに問い合わせてみましょう。
抗体検査で抗体価が低いことが分かったら?
抗体検査で抗体価(ウイルスに対する抗体の量)が低いことが分かったら、予防接種を受けましょう。現在は風疹のみを予防するワクチンではなく、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が主に接種されています。ただし、MRワクチンは生ワクチンと呼ばれる種類のワクチンであり、お腹の赤ちゃんへの影響をできるだけ避けるため妊娠している女性は接種できません。また、同じ理由で接種前1カ月と接種後2カ月は避妊する必要があります。
男性も抗体検査と予防接種を
女性が妊娠中に風疹ウイルスに感染しないようにするには、男性も抗体検査を受け、必要であれば予防接種を受ける必要があります。特に、予防接種を全く受けたことがない世代に当たる1962~1978年度生まれの男性には、厚生労働省の主導により各自治体で風疹の抗体検査と予防接種を無料で受けることができるクーポンが配布されるなど、国としても対策に力を入れています(クーポンは2022年3月末まで有効)。感染者の多くを男性が占めていることや、風疹ウイルスは職場や通勤電車で感染が広がるケースが多いことを考えると、男性も積極的に予防接種を受ける必要があるといえそうです。