男性不妊にはどのような治療が行われるの?

2019.9.12

男性不妊

男性不妊は珍しいことではありません。WHO(世界保健機関)の調査によると、不妊原因の半数近くは男性側にあることが明らかになっています。男性の不妊症は、受精可能な精子が作られない造精機能障害、作られた精子が尿道まで移動できない精路通過障害、そして射精ができない性機能障害に分けられます。なかでも、造精機能障害は男性不妊の中で最も多く、80%以上を占めます。男性不妊にはどのような治療が行われるのか、ここでは主な治療法を解説します。

造精機能障害に対する治療

精子は精巣で作られ、精巣上体で蓄えられる間に運動能力を獲得し、受精可能な状態になります。この過程が障害される造精機能障害は、精液中の精子の数が少ない「乏精子症」、何らかの原因で精子が作られなくなる「非閉塞性無精子症」、精子の運動率が低い「精子無力症」に分類されます。

軽度の乏精子症、精子無力症の場合は人工授精、重度の場合は体外受精・顕微授精が行われます。非閉塞性無精子症では、陰嚢を切開した上で顕微鏡により精巣内の精子を探し出して回収する「顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE)」と呼ばれる手術を実施した上で、体外受精・顕微授精が行われます。男性パートナーの精子による妊娠が困難と考えられる場合は、提供精子を用いた人工授精が考慮されることもあります。

精索静脈瘤が原因の場合

造精機能障害の原因は、約40%が精索静脈瘤と言われています。精索静脈瘤は、精巣から心臓に戻る静脈がさまざまな要因で逆流し、精巣の周りにコブのようなものを作ってしまう病気です。一般に、陰嚢内の温度は体温より少し低く保たれているのですが、精索静脈瘤があると陰嚢内の温度が上昇し、精子を作る機能が低下すると考えられています。

精索静脈瘤は決して珍しいものではなく、一般の健康な成人男性の15%程度に認められますが、その全ての男性で精子が作られにくいわけではありません。しかし、精液検査で精子の数や性状が不良であることが認められ、ある程度大きな精索静脈瘤が確認された場合は、治療が必要となります。治療では、顕微鏡あるいは腹腔鏡を用いた手術が行われます。

ホルモン不足が原因の場合

血液検査の結果、精子を作るために必要な脳下垂体から分泌されるホルモンの不足が明らかになった場合は、ホルモンを補充する治療法が有効です。また、排卵誘発剤として女性に処方されるクロミフェンという薬は、男性ホルモンであるテストステロンの分泌を促進して精子形成を促す効果があるため、乏精子症に処方されることがあります。

原因不明の場合

造精機能障害は、その半分以上が原因不明です。その場合、造精機能の改善を目的にビタミン剤や漢方薬での治療が試みられますが、現時点ではっきりとした効果は証明されていません。

精路通過障害に対する治療

精巣で作られ運動能を得た精子は、精管を通り尿道に達します。しかし、精子の通り道である精管が炎症などを起こすと、通過障害が生じて精子は通れなくなります。いわゆる「パイプカット」の手術を受けた後と同じ状態です。そのため、精液検査では精子がほとんど見つからず、閉塞性無精子症と診断されます。

閉塞性無精子症では、精巣内で精子自体は作られているため、外科的手術で精路の閉塞を解除することができれば自然妊娠が期待できます。他にも、精巣上体に針を刺して精子を回収する「経皮的精巣上体精子吸引術(PESA)」という治療が行われることもあります。

性機能障害に対する治療

性機能障害には、ストレスなどにより勃起が起こらず性行為ができない勃起不全(ED)と、性行為はできても腟内に射精ができない膣内射精障害があります。

勃起不全には、ホスホジエステラーゼ阻害薬であるバイアグラ、レトビラ、シアリスといった薬が処方されます。作用は同じですが、服用の仕方や特徴がそれぞれ異なりますので、医師の指示のもと使用する必要があります。メンタルを原因とした勃起不全の場合は、漢方薬が処方されたり、カウンセリングが行わる場合もあります。勃起不全や膣内射精障害の場合、マスターベーションで得られた精子で人工授精を行うことが可能です。

不妊の原因が男性側にある場合、女性パートナーとともに不妊治療専門の医療機関か泌尿器科を受診してみましょう。男性の場合、「プライドが許さない」などといった理由で、受診に抵抗感を覚える方もいるかもしれません。しかし、不妊治療ではカップル双方の協力が重要です。原因が男性にあっても女性にあっても、お互いに思いやりをもって治療を行いたいですね。

(文/メディカルトリビューン編集部)