妊活をポジティブに捉えた「TGP」生活のススメ|東尾 理子さん

2019.8.20

東尾理子

東尾 理子さん

プロゴルファー。1975年、福岡県生まれ。8歳でゴルフを始め、帝京高校2年時に日本女子アママッチプレーで優勝。1995年に米・フロリダ大学へ留学し、心理学を専攻。卒業後の1999年8月に日本のプロテストに合格。2004年にはUSLPGAツアー参戦シード権を獲得し米女子ツアーでも活躍。2010年に俳優の石田純一氏と結婚、不妊治療を経て現在は3児の母。著書に、自身の不妊治療体験をまとめた『「不妊」じゃなくて、TGP 私の妊活日記』(主婦の友社)がある。NPO法人Fineが認定する「不妊ピア・カウンセラー」としても活動する。父は元プロ野球選手・監督の東尾修氏。

「不妊」という言葉に馴染めず、「TGP」を考案

若い頃のことを振り返ってみると、妊娠ができる年齢にはタイムリミットがあることや、女性だけでなく男性も不妊の場合があることなど、妊娠・出産に関しては知らないことばかり。子供は誰でも自然にできるものだと思っていました。そもそも私たちが受けた性教育は、どうすれば避妊できるかという観点に立っていたと思います。大人になって、結婚をしてなかなか妊娠に至らず、不妊治療を経て出産、子育て中の今になって思うのは、性教育では子供の作り方を教える、いわば生殖教育を行うべきではないか、ということです。子供の作り方を教えることは、つまり避妊を教えることにも繋がると思うからです。

冒頭で私は、「不妊」という表現を使いましたが、それが医学用語と分かっていても、個人的にはどうにも馴染めません。「不」という言葉にネガティブな印象を受けるからです。「これから妊娠、出産して子育てがしたい」という思いはポジティブだと思うので、私はあえて「TGP」という言葉を考え、使ってきました。TGPとは、Trying to Get Pregnantの頭文字を取った造語で、「妊娠しようと頑張っている」という意味です。

元々の性格もありますが、メンタルスポーツと言われるゴルフに取り組んできたことや、アメリカ留学中に心理学を勉強したこともあって、基本的にポジティブ思考です。また、自分の発する言葉には責任を持ちたいという思いから、妊娠するために前向きな気持ちで治療に取り組む姿勢を表したくて、TGPという言葉を考え出しました。

パートナーとの協力関係を築くには

実際のTGP生活は、長男を授かるまでに約2年がかかりました。前向きでいたかったですし、スポーツをしていて心も体も強いと思っていましたが、治療の結果が伴わない時は落ち込みました。モノを買うにはお金を出せば手に入りますが、TGPでは努力しても妊娠に至らないこともあります。そんな時は、心身的にも経済的にもダメージが大きいと思います。

とはいえ、お金(費用)か身体か気持ちのどれかがギブアップするまでは、治療を続けようと思っていました。もちろん、夫のサポートも大きかったと思います。よく、男性パートナーの協力が得られないという女性の悩みを耳にしますが、私の場合は夫に「○○してくれない?」と尋ねず、「○○してね」とやってくれることを前提にお願いをしていました。夫がゆっくりワインなどを飲んでいるような、気持ちと時間にゆとりのありそうな時に、笑顔で話しかけることがコツです。

夫は元々、「ノー」とは言わない性格です。例えば、すでに予定が入っていても別の誘いを受けたら、先約があるから断るということはせず、まずはどうすれば両方とも実現できるかを考えるタイプです。ですから、TGP生活でも最初の検査から嫌な顔ひとつせずに一緒に受けてくれましたし、治療が進むにつれて結果を電話で聞くのが憂鬱な時でも、夫に聞いてもらいました。それと、TGPではどうしても女性の体への負担が大きくなります。決して積極的に何かに取り組む性格ではないものの、私の気持ちを否定せず応じてくれるのは心強いですし、夫の尊敬できる部分の1つです。男性は女性に対して「手伝う」というスタンスの方が多いと思いますが、そうではなく一緒にやることで、お互いの関係も深まるのではないでしょうか。

TGPに取り組む中で大切だと思うこと

そもそも、不妊治療を受ける前に、なぜ子供が欲しいのかを自問することが大切だと思います。恐らく、答えは3通りです。①妊娠・出産という経験をしたい、②パートナーと自分の遺伝子を残したい、③漠然と家族がほしい-ということではないでしょうか。①や②であれば、積極的に治療を受けるべきだと思いますが、③であれば養子縁組という選択肢もあります。

そして、TGP生活を続けていく中で重要なことは、思うように結果が得られないことがあっても、ネガティブ思考に陥る必要はないということです。例えば、ゴルフでOBを出すために練習する人はいません。誰でも、いい結果になるように一生懸命練習をするものです。TGP生活でも、食事や睡眠や運動など、自分の普段の生活にも気を付けながら、時に辛いと思うような治療を受けることもあるわけです。そんな頑張っている自分を認めて、褒めてあげる気持ちを持つことが大切だと思います。

ストレス解消方法は、TGPという共通テーマを持つ人と語り合うこと

私が実行していたストレス解消法のようなものは、ランチ会やお茶会を通じた語り合える場を持つことでした。これは、TGPを考えている人、実際に取り組んでいる人、経験済みの人、そしてそのパートナーの人たちを対象にした、気軽な集まりです。例えば、「今から2時間後に恵比寿に集合できる人」というように、私のブログを通じて呼びかけるのです。そこに集まった初対面の人たちがざっくばらんに話しをするのですが、会が終わる頃には皆さんがすっきりした笑顔になって帰って行くのが印象的でした。

私自身もそうですが、TGPという共通のテーマを持ちながらも、見ず知らずの他人だからこそ本音で語り合えることもあるのだと思います。それが、気分をすっきりさせることに繋がったのではないでしょうか。

TGP生活では、皆がその時ベストだと思う決定をしているはずですから、自分に嘘をついたり無理をしたりしなくていいのです。もっと自分を褒めて、認めてあげればと思います。(聞き書き)