ストレスと不妊は関係するの?

2019.8.8

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強いストレスを感じたときに、生理不順になった経験を持つ女性は多いはず。実際、月経異常は過敏性腸症候群や胃・十二指腸潰瘍、高血圧やうつ病などと並んで、ストレス関連疾患の代表です。深刻なストレスがホルモン分泌に悪影響を与え、不妊につながる例もあります。では、ストレス社会に暮らす現代人はどうすればよいのでしょうか。ストレスと不妊の関係、またストレスの対処法について、認知行動療法などで使う「認知」と「コーピング」という2つの視点から考えていきましょう。

なぜストレスがホルモンに影響するのか

ストレスとは、そもそも生体に生じる「ひずみ」を意味する言葉です。ストレス学説を提唱し、この言葉を有名にしたカナダの生理学者ハンス・セリエによれば、ストレスを生じさせる要因として、寒冷や騒音などの「物理的ストレッサー」、薬物、化学物質などの「化学的ストレッサー」、飢餓や感染などの「生物的ストレッサー」、怒りや恐怖などの「心理的ストレッサー」があるといいます。

例えば、寒冷のストレスを感じた生体は、それに適応するためストレスホルモンを分泌し、体温を上げる、心拍数を増やすといったストレス反応を起こします。ところが、強いストレスが長期間続くと、生体はこれに耐えきれず、ストレス反応に起因するさまざまな症状を起こしてしまいます。

月経や妊娠、出産といった生殖機能は、脳の視床下部−下垂体を司令塔として各種のホルモンを分泌することで働きます。一方、ストレスを感じた場合も、視床下部−下垂体−副腎皮質ストレス反応系が動き出し、コルチゾールというストレスホルモンを分泌します。つまり、どちらもその中心的役割は視床下部−下垂体が果たしているのです。正常な状況なら多少のストレスが加わっても問題は生じませんが、過度のストレスを受け続けると、身体は生体防御に直接関わるストレスホルモン分泌を優先するため、生殖ホルモンのコントロールがおろそかになります。それが、月経異常や不妊に結びつくと考えられています。

ただし、ストレスと不妊の関係を科学的に証明することはとても困難です。ストレスを感じるかどうかは個人の主観であり、その有無や量を数値で示すような検討は成り立たないからです。昨年、“The relationship between stress and infertility”というタイトルの論文が神経科の医学誌に載りましたが、そこでは「不妊がストレスの原因なのは明らかだが、ストレスが不妊の原因になるかどうかはそれほど明確ではない」と述べられています。しかし、ストレスへの心理学的な介入、特に認知行動療法によるアプローチが、ストレスを軽減し、出産率を改善したと報告しています。

ストレスとどう向き合うか「認知とコーピング」

現代人の生活はストレッサー、特に心理的ストレッサーであふれています。「母が無神経な発言を繰り返す」「夫が家事をしない」などといった家庭内のストレッサーや、「上司に厄介な仕事を押し付けられた」「会社でリストラの噂がある」といった職場におけるストレッサーの例を挙げれば、ストレスと無縁に暮らすのは難しいことが分かるでしょう。

では、ストレスに強い人と弱い人がいるのはなぜでしょう。ある人に「ストレッサー」となる何らかの問題が起こったとき、それがすぐに「ストレス反応」として現れるわけではありません。人によってストレッサーの受け止め方、すなわち「認知」は異なります。また、ストレッサーへの対処法、つまり「コーピング」の有無や上手下手によっても、症状が出てくるかどうかは変わってくるのです。

【ストレスの流れ】

 ①ストレッサー(問題となる出来事)

 ②認知(それをどう受け止めるか)

 ③コーピング(いかに対処するか)

 ④ストレス反応(心身に現れる変化)

「どっちも正しい」と「鳥の目、虫の目」

「失業した」。これは大きなストレッサーとなる出来事です。しかし、これを「取り返しのつかない大失敗」とみるか、「多くの人が経験していること」と捉えるかで、ストレス反応は大きく変わってきます。「ゆっくりできる時間ができた」と、前向きに考えられる人もいるのです。

ストレスに押しつぶされそうな人、ストレスで眠れない、腹痛が続くといった症状が出ている人は、一度、自分の認知のあり方を意識してみてください。「楽観的なあの人ならどう考えるか」「別の捉え方はできないだろうか」と考えるのです。これは、ものごとの捉え方を広げること、柔軟にすることの練習になります。

とはいえ「認知」を変えるとは、ある意味で長年かけて培ってきた自分自身の世界の見方を変えるのと同じで、簡単にはいきません。ここでは、よく使われる言葉を二つ紹介しておきます。

一つ目は「どっちも正しい」という言葉です。先ほど失業を例にして、3つの捉え方を挙げましたが、いずれも間違いではありません。正解は1つではないのです。「ゆっくりできる時間ができた」という捉え方について、「信じられない」「無神経!」と感じた方はいないでしょうか。そういう方はひょっとすると、ものごとの捉え方が少し偏っている可能性があります。「どっちも正しい」といういい加減な言葉が、「世界には正解がある」「正しく行動していれば、正しい見返りがある」といった思い込みを正してくれるかもしれません。

二つ目は「鳥の目、虫の目」です。ものごとを捉えるには大局から眺める鳥の目と、細部を見つめる虫の目の両方が必要ですが、自分の抱える問題で頭がいっぱいだと見方が近視眼的になりがちです。大空をいく鳥の目で見れば、実に小さなことで思い悩んではいないか。これは、そうしたことを思い出させてくれるマジックワードです。

自分なりのストレスコーピングを準備して

では、ストレスコーピングとはどのようなものでしょうか。嫌なことがあったとき、ストレスを感じたとき、それを忘れるために行うのがストレスコーピングです。飲みに行く、友人と長電話するというのも、立派なコーピングになります。

専門家はコーピングを、ストレッサーの消滅を目指す「問題解決型コーピング」、先ほどのように認知の枠組みを変える「認知再評価型コーピング」、「気晴らし型コーピング」、周囲に援助を求める「支援要請型コーピング」などに分類しています。

支援要請型を言い換えるなら「一人で抱え込まない」こと。問題解決型では、ストレッサーがなくなればいうことはありませんが、そこから逃げ出すことも重要な選択肢になります。このコーピングを好む人は、逃げることが嫌い、気晴らしも苦手な真面目な人が多いのですが、逃げられるストレスと長々付き合う必要はありません。大切なのは、自分なりのコーピングの方法をいくつも準備し、ストレスに対処できるようにしておくことです。

(文/メディカルトリビューン編集部)