不妊治療の自己注射って安全?何のためにやるの?
不妊治療における注射の一部は、自宅でも行うことができます。通院回数が減るなど負担を軽減させることが可能ですが、「自己注射って痛いのでは?」「副作用が出た場合の対応は?」といった心配の声も聞こえてきそうですね。ここでは、不妊治療の自己注射について解説します。
自己注射は排卵誘発のための方法です
不妊治療で行われる排卵誘発法では、LH(黄体化ホルモン)やFSH(卵胞刺激ホルモン)など、卵巣を刺激するホルモンの分泌を促す飲み薬を数日間服用したり、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)製剤を数日にわたって注射することで、排卵を促します。このうち、hCG製剤にはクリニックで注射するものと自己注射できるものがあります。
排卵誘発法は、タイミング法を行う患者さんで全く排卵が無い、もしくは定期的な排卵が無い方を対象に行われるほか、人工授精、体外受精(IVF)へとステップアップした方に行われることもあります。タイミング法の場合には、排卵障害の場所や重症度によって飲み薬か注射剤かを選択します。体外受精ではより強力な刺激となる注射剤を投与することが一般的です。
hCG製剤の種類は?
排卵誘発法で使われるhCG製剤の注射には、大きく分けて3つの種類があります。①閉経後の女性の尿から精製したLHとFSHの両方を含有するhMG製剤、②hMG製剤からLH成分を除去してFSHのみにした精製FSH製剤、③遺伝子組み換え型FSH製剤です。
このうち、遺伝子組み換え型FSH製剤の注射器は、糖尿病で用いられるインスリン製剤のようなペン型をしています。より簡易、安全に注射できるような工夫がされており、自己注射が可能です。
自己注射のメリットとデメリット
こうしたhCG製剤全体にいえる特徴として、強力な排卵誘発効果が挙げられます。注射では投与する薬剤の量を調整することができるので、少量から開始して少しずつ増量することが一般的です。投与量の調整により、発育する卵胞数のコントロールもしやすいといわれています。一方、多数の卵胞の発育(多発排卵)を引き起こして多胎妊娠が生じたり、卵巣過剰刺激性症候群(OHSS)をはじめとする副作用が起こることがあるため、注意が必要です。
OHSSは、「重篤な副作用」として厚生労働省からも対応マニュアルが示されています。卵胞が過剰に発育することで、通常は親指ほどの大きさの卵巣が大きくふくれあがり、お腹や胸に水がたまるなどの症状が起こります。重傷化すると腎不全や血栓症などさまざまな合併症が引き起こされることもあるため、注意が必要です。「お腹が張る」「吐き気がする」「急に体重が増えた」「尿量が少なくなる」といった症状に気がついたら、すぐに専門の医師に相談しましょう。
注射を自宅で行うメリットは?
排卵誘発法では、hCG製剤を数日間にわたり連続して注射する必要があります。自己注射をすることで、通院する負担を軽減できることは大きなメリットといえるでしょう。
厚生労働省が企業を対象に行ったアンケートによると、回答者の2割程度の方が、仕事と不妊治療を両立できず、離職するか不妊治療を諦めたと報告されています。また、仕事と不妊治療の両立が難しいと考える理由として、半数近くの方が「通院回数が多い」と回答しています。
自己注射であれば、仕事をしている方に限らず、家事、育児を抱える方でも、それぞれのライフスタイルに合わせたより柔軟な治療を行うことができます。
自己注射を行う前に、医師に相談して納得しましょう
「自己注射は痛くない?」「もし、注射を失敗したら?」「家にいるときに副作用が出たらどうすればいい?」自宅で、しかも自分で注射をするとなれば、いろいろな不安が浮かんでくることでしょう。
hCG製剤の自己注射は、より痛みが少なく、簡便な方法で行えるよう工夫がなされていますが、不安な点があるのであれば、専門の医師やスタッフとしっかりと話し合った上で開始しましょう。
投与方法や保管方法、注意すべき症状などを確認し、気になる症状が現れたときや不安になった時の連絡先も聞いておきましょう。治療中の病気や、服薬中の薬があれば伝え、その他にも疑問点があるのなら、納得するまで質問してみてください。