受精卵の凍結保存ってリスクはないの?

2020.2.12

精子

近年、体外受精や顕微授精によって得られた受精卵(胚)を凍結保存し、次の周期以降に融解して移植する「凍結胚移植(凍結融解胚移植)」が広く行われています。受精卵が残っていれば再び採卵する必要がないため、身体的にも経済的にも負担を減らすことができ、着床しやすいタイミングで移植できるといったメリットが期待できますが、胚を凍結して保存することにリスクはないのか不安に思う人も多いかもしれません。ここでは、胚の凍結保存におけるメリットとデメリットについて説明します。

どんな時に受精卵を凍結保存するの

体外受精や顕微授精では多くの場合、排卵誘発剤を使用するため複数の受精卵が得られますが、多胎妊娠のリスクから移植できる胚の数は原則1個に制限されています。そこで、移植(新鮮胚移植)に必要な胚を1個だけ残し、それ以外の受精卵を凍結保存しておけば、新鮮胚移植で妊娠に至らなかったり、妊娠して子どもが生まれた後に2人目、3人目の赤ちゃんがほしいと思った時に、凍結胚を融解して移植することができます。

また、新鮮胚移植を予定していたものの、排卵誘発剤の副作用で卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の重症化リスクが高い場合や、子宮内膜が薄いため移植に適さないと判断された場合にも、胚の凍結保存が行われることがあります。

さらに、凍結胚移植には①身体的かつ経済的な負担が軽減される②新鮮胚移植と比べて妊娠率が高いなどといったメリットも期待されることから、最初から新鮮胚移植は行わず、基本的に全ての胚を凍結する医療機関も増えているようです。日本産婦人科学会のデータによると、2017年に体外受精・顕微授精で生まれた赤ちゃんの約85%は凍結胚移植により生まれています。

胚の凍結保存の方法は?保存可能な期間ってどれくらい?

胚の凍結方法には「急速ガラス化法」と「緩慢凍結法」の2種類がありますが、日本では急速ガラス化法が主流です。これは、細胞の破壊を防ぐ目的で胚を凍結保護剤に浸した後、「クライオトップ」と呼ばれる棒状の容器に載せて-196度の液体窒素の中に入れ、凍結するという方法です。凍結した胚は液体窒素保存用タンクの中で保存します。

凍結された胚は半永久的に質が維持できるとされますが、日本産科婦人科学会は倫理面を考慮し、凍結胚の保存期間について「被実施者夫婦が夫婦として継続している期間であって、かつ卵子を採取した女性の生殖年齢を超えないこととする」との見解を示しています。

凍結保存にデメリットやリスクはあるの

急速ガラス化法であれば、凍結に伴い細胞がダメージを受けることは極めてまれだとされています。ただし融解した後、100%の生存率が保障されるわけでないことは心に留めておきましょう。

なお、凍結胚による妊娠で生まれた赤ちゃんの出生後調査では、自然妊娠による赤ちゃんと比べて身体的あるいは精神的な発達の差は認められていません。また、マウスの胚を凍結保存した実験でも、凍結が原因で異常が起こるようなことはなかったと報告されています。ただし、出生した赤ちゃんがその後成長していく過程での長期的な影響については現時点では不明です。

一方、どうしても避けられないのが不測の事態による凍結胚への影響です。地震や火事などのために凍結胚を保存しているタンクが破損・転倒したり、水害による水没で凍結胚が融解してしまうと、細胞は死んでしまうため移植には使用できなくなってしまいます。

【凍結胚移植のメリットとデメリット】

■メリット
  • 余った胚が無駄にならない
  • 何回も採卵する必要がなくなるため、女性の身体的かつ経済的な負担を減らすことが可能
  • 新鮮胚移植と比べて妊娠率が高い
  • 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症や重症化を回避できる
  • 子宮内膜の状態が良い時に移植でき、着床率の向上につながる
  • 1回の移植胚の数を少なくすることで多胎妊娠を予防できる
  • 移植スケジュールを立てやすいため、仕事の調整がしやすい
  • 一度胚を凍結保存しておけば、後の卵子の老化を心配する必要がない
■デメリット
  • 氷晶、低温、耐凍剤に由来する障害を受ける可能性がある
  • 耐凍剤や凍結保存によって透明帯が硬化することがあり、融解した後にアシステッドハッチング(孵化補助)が必要になる場合がある
  • 地震や火災などの災害で凍結タンクが破損したり、水害などで水没してしまう可能性がある

以上のようなメリットとデメリットが考えられる凍結胚移植ですが、凍結胚を移植するにしろ破棄するにしろ必ずカップル双方の同意が必要です。なぜなら凍結胚は男女どちらかではなく、カップル二人のものに他ならないからです。不明点があれば専門の医療機関を二人で受診し、医師やスタッフに納得がいくまで質問してみましょう。

(文/メディカルトリビューン編集部)