漢方薬で不妊改善はできるの?

2020.1.21

様々な薬

不妊治療では漢方薬が使用されることが少なくありません。漢方薬はホルモン剤の代わりにはなりませんが、その人の心身の状態に合わせた適切な漢方薬を使用すれば、妊娠しやすい体質に改善する可能性があります。ここでは、漢方薬の特徴と使用する際の注意点などを解説します。

そもそも、漢方ってどんな治療なの?

漢方薬は草や木など自然にあるもので作られた「生薬」を組み合わせた薬です。漢方はもともと漢(中国)生まれの医術で、日本に伝わってからは日本人に適応させた医術として独自の発展を遂げました。

漢方薬が一般的な処方薬(西洋医学で使用されている薬)と異なるのは、身体に本来備わる働きを高めるように作用し、自身の力で回復する状態をつくろうとする点です。そのため、一つの症状だけでなくその人の身体と心を全体的に見極めた上でどの漢方薬を使用するかが決まります。

最近は、漢方薬の効果に関する科学的根拠が増えたこともあり、病院で漢方薬が処方されるケースが増加していると言われます。病院で処方されている漢方薬の多くは、健康保険が適用される「医療用漢方製剤」です。現在、不妊に限らず西洋医学では対応しにくいさまざまな症状に対して漢方薬が使用されています。また、西洋医学の治療を補完する目的で漢方薬が使用されることも少なくありません。

妊娠力に重要なのは「腎」「気」「血」

漢方では西洋医学と臓器の捉え方が異なり、「肝・心・脾・肺・腎」の五臓という概念に基づいて人の身体のシステムを捉えています。このうち、不妊にかかわるのが「腎(じん)」です。

漢方の考えでは、妊娠には男女とも生殖、成長、発育の源である「腎」と、目には見えない体内のエネルギー源である「気(き)」、全身の組織に栄養を与える血液などの「血(けつ)」が重要だと考えられています。

人の成長や発育、生殖に影響する生命エネルギーのことを「腎気」と呼んでおり、加齢に伴う腰痛や骨粗鬆症、排尿障害や失禁、下肢の冷え、難聴、皮膚の乾燥などは腎気が衰退した「腎虚」の症状と考えられています。不妊に関する腎虚の症状としては性機能が低下した状態、例えば女性では卵巣機能不全あるいは黄体機能不全、男性では精子減少症や精力減退などが挙げられます。

こうした腎虚の症状の主な原因は「冷え」だとされており、漢方による不妊治療ではこの冷えを治すことを目的とした治療が行われることが多いようです。

不妊でよく使われる漢方薬は?

他にも、漢方では血(けつ)が滞った状態を指す「瘀血(おけつ)」の改善のため、 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)が処方されるケースも多いようです。これらは、不妊に限らず冷え性や月経不順など婦人科系の問題がある女性に広く使われています。

こうした漢方薬が実際に妊娠率を上昇させるかは専門家の間でも意見が分かれていますが、漢方薬で症状の緩和を図ることは精神的ストレスを低減し、女性のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高める上でも有用と考えられています。

ただし、自然由来の漢方薬にも副作用の可能性はあります。特に体質に合わない薬を使うと副作用が現れたり、特定の漢方薬にアレルギー症状が出てしまう人もいます。そのため一般的な処方薬と同様、漢方薬も自己判断で使用を始めたり中止するのは禁物です。漢方薬を使ってみたい、あるいは既に以前から漢方薬を使用している場合も、必ず医師に相談しましょう。

西洋医学の考えと組み合わせた「周期調節法」の選択肢も

西洋医学での考え方と同様に、漢方でも規則的な周期で月経が来るかどうかが重視されます。月経の周期や経血の量と色、生理痛や不正出血の有無などを把握した上で、症状に応じた漢方薬が決定されます。

そのため、基礎体温の記録は漢方療法にも役立つことがあります。基礎体温表によって排卵日を予測したり排卵の有無を推定したりするだけでなく、漢方医学的に見た体質を推測することも可能になります。

また、西洋医学的な観点から見た月経周期のメカニズムと漢方の理論を合わせた「周期調節法」も、卵子の質を向上させ着床しやすい子宮環境が整う確率を高める方法として注目されています。これは、月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4つの段階に分けて漢方薬を飲み分ける方法です。このような周期調節法による漢方療法を受ける場合も、基礎体温の記録が有効になります。

漢方薬だけに頼らず、まずは婦人科の受診を

不妊治療を受けたいけれど婦人科や不妊治療のクリニックの受診には抵抗があるから、できれば漢方薬だけで妊娠力を高めたい。そう願う女性も少なからずいるでしょう。しかし、体内に妊娠を妨げる病気が潜んでいる可能性は否定できません。

まずは、医療機関を受診して不妊の検査を受けることが大切です。その上で必要な治療を受け、その効果を高めるために漢方薬を組み合わせるのが望ましい治療のあり方といえそうです。

(文/メディカルトリビューン編集部)